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太田清之著作集
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関連文集:「太田清之著作集」より

昭和34年9月放送ペン
 アルコールと人間
 

 最近人間のアルコールに対する反応が急速に変わって、一種の異変ともいえる現象をみせている。昔はアル中といえば、何れも中年以上の男であり、その数も少なくて、全患者中に占める割合は常に一%以下であった。ところがこの頃は、やっと未成年期を脱したばかりの少女にさえ、急性の病的酩酊が現われたり、慢性のアル中が三十才前の青年に見られる様になった。その数も次第に増加して、全患者中に占める割合も一〇%をこす程になった。

 アル中の年齢低下、女性アル中の出現とその数の増加は戦後の日本に出現しつつある悲しむべき異変の一つである。

 昔は歯にしみとおる秋の酒を心静にたのしんだ。今の若者は酒の味などには関心がなく、唯一時の酔いを求めて、強い酒をがぶのみする。成人への反抗と模倣、秘かなる内にある劣等感、自己誇示と英雄感、住み難い世と将来に対する絶望感、新しい経験への好奇心など、若者特有の心の弱さが彼等を支配し、更に最近の女性の職業的進出や女権の拡張、さては悪友の強酒、泥酔者への寛大という様な社会的悪癖によって、彼らは酒に近づき、遂にはただ衝動的にのむ様になる彼らはのんであばれる。失敗と犯罪がすぐこれにつづく。しかし酒なしに生きられない。かくて少年期からのみ出して、三十年前には慢性のアル中が立派に成立する。勿論アル中には素質的な誘因も伏在するが、酒がなければアル中はない。

 とに角民族を生みかつ育てる女性にアル中が出た事は、我国優生の危険を倍加する。これらアル中に対して色々な制酒剤が発明され市販もされている。しかし薬効をみる迄にはかなり長期を要し、又症状に応じて適量を加減せねばならず、副作用も決して少なくない。特に本人の禁酒に対する固い決意が何より必要で、他から強制されてはいかなる特効薬も効がない。一時中毒が全治した様に見えても、すすめられるままに一盃でも傾けたら、それでおわりである。たちまち元の中毒時の酒量に戻る。アル中程酒に対して意志の弱いものはなく、アル中程再発し易いものはない。制酒剤も本人の禁酒への覚悟を助けるだけで、強酒という社会的悪癖を改め、泥酔者にもっと社会が厳格でない限り、中毒者は益々増加するだろう。

 アルコールは少量ならば薬にもなるが、大量ならば、それは単なる麻酔剤にすぎない。交通事故の大半が酔っぱらい運転によるという今日、青少年の犯罪がアルコールと密接に結びつく今日、家庭の不和や破綻が主としてアルコールによるという今日、私共はアルコール飲料に対する厚生省当局の適当なる処置を切望せざるを得ない。大蔵省のお役人が酒税の増加を喜んでいる間に、日本国民の素質は低下の一途をたどっているのである。





馴れぬ場所なれぬ看護婦なれぬメス一汗かきぬ手術終わりて ささやかな土にはあれど新しく吾が得しものと手に採りてみる 太田清之
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太田清之著作集
札幌太田病院創立
40周年記念

発行:昭和59年11月11日


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