札幌太田病院創立者
太田清之生誕100周年記念事業
太田清之著作集
サイト内検索: 
HOME当時の論文・コラム関連文集イメージギャラリープロフィール
HOME 当時の論文・コラム 関連文集 イメージギャラリー プロフィール
 
 
当時の論文・コラム:「随筆:狂人と常人」より

昭和15年 医界展望 第278号
 精神病院に於ける電撃療法
 

 伊太利のSoglaniと殆んど同時に九大の精神科の安河内及び向笠両氏に依って創始せられた精神分裂病その他の精神病に対する電撃療法は、確かに画期的な療法であって、私は進行麻痺に対するマラリア療法にも比すべきものと考える。この簡易にして確実なる療法を持ち得た事は、私共精神病医の大きな喜びでなければならぬ。扨てこの療法が精神病院の構造や機構に対しても一定の意義を有すべきは当然であって、現在の精神病院はこの療法のために、多少の改革をなさるべきであろうし、今後の精神病院もこの療法を目的として、診察室や病室や保護室に多少の考慮がなされるであろう。

 曾って今より二十年前マラリア療法の発見は、全世界における精神病院の機構を全く改革せしめた。それまでの精神病院はただの監置室であり、狂人の宿屋に過ぎなかった。精神医は看守であり、故に当時の精神病医は、もう内科医としても役に立たぬ老人とか、廃人に近い人々の世を忍ぶ姿であった。然るにマラリア療法が発見せられるや、精神病院は初めて病院としての設備と体裁を具へ、精神病医にも、将来大きな希望を有する潑刺たる若者を招く事が出来る様になったのである。

 同じ様な事がこの電撃療法の創始を機会として、多少に拘わらず惹起こされるであろう。今日の精神病院に於いては昔日の鉄鎖とか緊縛とかその他の脅迫器具の使用は既に全く忘れられて居る。しかも尚多数の鍵や錠の使用や保護室への強制収容等は、時に絶対的に必要である。実際激しき亢奮患者の処置としては従来の持続浴も、強気鎮静剤の大量投与も屢々無効であって、自他共に危険なる衝動行為の防止には、亢奮患者を保護室に強制収容して他の患者より隔離するより外にないのである。しかも斯くの如き患者を収容した保護室からの騒音と叫声とは、全院の安眠を屡々強奪するのである。然し今や私共は有効なる電撃療法を持って居る。外来に於いて一人の亢奮患者をもて余し、大騒ぎする様な事はもうないであろう。入院せぬとて頑張る患者は電撃に依る熟眠中に病室に移されるであろう。病室の安静は一層よく保たれ、鍵や錠の数も次第に減少して行くであろう。保護室の数は現在よりは、もっと少なくて済むであろう。そして保護室内に於いて電撃療法をなす事に依り、保護室からの騒音や叫声に悩む事もなくなるであろう。そこでこれまでの様に、一週間も十日間も持続的に保護室に収容すると言う必要は極めて少なくなるであろう。毎夜就眠前に投与する眠剤の総量もその回数もずっと減るであろう。リンゲル氏液やカルシューム剤の注射、或いはプローム剤の投与の如きものも次第に過去のものとなるであろう。実際これ等の薬剤は患家と医師との慰めのためのみに行われて居た様な実状であったのである。斯くして精神病院に於ける治療の大半が本療法に依って占められるであろう。以上の如くして、電撃療法の容易に且つ安全に行われるために、精神病院の構造及び機構は自ら変更されて行くであろう。

 インシュリン・ショック療法やカルジアゾール・ショック療法が、ただ本療法の前駆としての歴史的意味を持つに過ぎない時があっても、この電撃療法は永久に残る療法として、常に新しく行われ続けるであろう事を私は確信するのである。





ささやかな土にはあれど新しく吾が得しものと手に採りてみる 太田清之
このページの書籍
 
<a href=index.cgi?action=search&w=随筆:狂人と常人>随筆:狂人と常人</a>
随筆:狂人と常人
発行:昭和23年1月20日



注意事項
本ホームページは太田清之(1903〜1961)が発表した文献を掲載しているため、記載されている情報は現在の医療規則・法律よりも古いものです。




ページ上へ 前のページへ

HOME当時の論文・コラム関連文集イメージギャラリープロフィール

本ホームページは太田清之(1903〜1961)が発表した文献を掲載しております。

Copyright (c) 2004 kiyoshi-ohta All Rights Reserved.
HOME 当時の論文・コラム 関連文集 イメージギャラリー プロフィール